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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2391号 判決 1977年6月30日

控訴人

関口喜寿

右訴訟代理人

渡辺明

被控訴人

植松英俊

右訴訟代理人

片山和英

主文

原判決を取消す。

控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は「原判決を取消す。亡植松ツヤ(本籍・徳島県美馬郡○○町字△△一三八番地)と被控訴人間に昭和三八年一〇月一五日なされた養子縁組は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠の提出・援用・認否は、次のとおり改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二枚目裏四行目から同末行までの記載を次のとおり改める。

「4 控訴人は、亡ツヤから同女所有の原判決添付別紙目録記載の土地建物を売買により取得し、昭和四七年一月九日その旨の所有権移転登記を経由しているものであるが、被控訴人は亡ツヤ死亡後同女の相続人として、控訴人に対し右土地建物につき所有権移転登記手続請求の訴を提起し(東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第八一〇四号事件)、右土地建物の売買は、亡ツヤ不知の間になされたものか、同女が正常な判断力を失つている状態でなされたものであつて無効であり、また仮にそれが有効であるとしても、不相当な対価をもつてなされた売買であるから民法一〇三九条により遺留分減殺請求権を行使すると主張して現在審理中である。よつて、控訴人には右訴訟の前提問題たる本件養子縁組の無効の確認を求める利益がある。」

2  原判決三枚目表八、九行目の記載を次のとおり改める。

「4 控訴人が亡ツヤから原判決添付別紙目録記載の土地建物を売買により取得したことは否認するが、その余の事実は認める。控訴人が本件養子縁組の無効確認を求める利益、したがつて当事者適格を有することは争わない。控訴人は、本件養子縁組の無効が確認されれば、被控訴人に対する右土地建物の所有権移転登記義務、遺留分相当の対価の支払義務を免れるのであり、本件養子縁組の無効によつて特定の権利を取得し、又は義務を免れる地位にあるというべきであるから、右当事者適格自体は肯定されてしかるべきである。」<以下略>

理由

一<証拠>によれば、亡ツヤを養親とし、被控訴人を養子として戸籍上昭和三八年一〇月一五日受付をもつて養子縁組がなされた旨の記載があることが認められるところ、まず、控訴人が右養子縁組の無効確認を求める当事者適格を有するか否かを検討する。

養子縁組無効確認の訴を提起しうる者の範囲については、必ずしも縁組当事者である養親又は養子に限られるものと解すべきいわれはないが、右訴に対する判決が対世的効力を有するものとされ(人事訴訟手続法二六条、一八条一項)、これにより縁組当事者の関係のみならず当該養親子関係を基本として形成されている身分関係にも広く影響が及ぶことを勘案するときは、縁組当事者以外の第三者にあつては、少なくともその一方の親族であつて、縁組無効の判決により直ちに相続、扶養等の身分関係に基づく権利義務を取得しもしくは免れる者に限るべきであり、右と異なり養親子のいずれとの間にも親族関係がなく養子縁組の無効につき単なる財産上の利害関係を有するにすぎない者は、当該財産上の権利義務の前提問題として養子縁組の無効を主張しうるものとするだけで十分であり、それ以上に他人間の身分関係の存否に介入し、これを対世的効力をもつて確定させるに至る養子縁組無効確認の訴を提起することはできないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、弁論の全趣旨によれば、控訴人と亡ツヤ又は被控訴人との間には何らの親族関係もないことが明らかであり、控訴人は、亡ツヤ所有の原判決添付別紙目録記載の土地建物を同女から買受けたとして、これにつき売買を原因とする所有権移転登記を経由しているところ、亡ツヤ死亡後被控訴人から、亡ツヤの相続人として右土地建物につき抹消にかわる所有権移転登記手続請求の訴を提起され(東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第八一〇四号事件)、右土地建物の売買は亡ツヤ不知の間になされたものか、同女が正常な判断力を失つている状態でなされたものであつて無効であり、また仮にそれが有効であるとしても、不相当な対価をもつてなされた売買であり売買当事者が被控訴人に損害を加えることを知つてしたものであるから、民法一〇三九条により遺留分減殺請求権を行使すると主張され、審理中であるので、右訴訟の前提問題たる本件養子縁組の無効の確認を求めるというのである。したがつて、前述したところに照らし、控訴人は、本件養子縁組の無効確認を求める当事者適格を有しないものというほかない(右別件訴訟における前提問題として本件養子縁組の無効を主張し、判断をうけうることはいうまでもない。大審院昭和一五年一二月六日判決・民集一九巻二三号二一八二頁、最高裁昭和三九年三月一七日判決・民集一八巻三号四七三頁参照。)。

ちなみに、仮に以上と異なり養親又は養子との間に親族関係のない者についても、養子縁組無効の判決によつて直ちに特定の権利を取得し、又は義務を免れる場合には当事者適格を認めるとの見解を採つてみても、なるほど本件養子縁組の無効が確認されれば、控訴人としては前記土地建物につき被控訴人に対し抹消登記ないしこれにかわる所有権移転登記手続をなすべき義務を負わず、また右土地建物の取得につき被控訴人から遺留分減殺請求権の行使をうけ、対価を償還する義務を負うこともないことに帰するわけであるが、控訴人が右のような義務を負うか否かは、本来、本件養子縁組の有効無効とは何らかかわりのない登記原因たる亡ツヤとの間の売買の成否又は民法一〇三九条所定の要件の存否及び他に遺留分を有する相続人の存否によるのであつて、右の各義務は本件養子縁組が有効であることから直接かつ当然に肯定されるわけではないことはもちろんであり、右に述べた本件養子縁組の無効が確認されることにより控訴人が右各義務を負わないことに帰する関係は、本件養子縁組が有効であれば控訴人において当然に負担すべき義務を右縁組が無効とされるが故に免れるというものではなく、前記の見解に立つても、右のような関係が存することをもつて本訴請求につき控訴人に当事者適格を肯定することはできないことに変りはない。<以下、省略>

(室伏壮一郎 横山長 河本誠之)

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